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2007年03月19日
戦争広告代理店
半年くらい前に読んだ本なのですが、今回これをレビューします。『ドキュメント 戦争広告代理店』
NHKで放映されたドキュメンタリが書籍化されたもので、ボスニア紛争で最も効果的だった兵器は戦車でもミサイルでもなく、演出と世論操作だったという話です。
1990年代に勃発したボスニア紛争。おもいっきり省略して簡単に言うと、セルビア人と、クロアチア人、モスレム人が対立した民族紛争ということになりますか。そこには本来、どちらが正義でどちらが悪かなどという区別はなかったでしょう。どっちもどっち、ただ立場の違いだけがあったはず。しかし当時の世論は、セルビア人を悪、モスレム人を正義、もしくは擁護されるべき被害者と見ました。それは、モスレム人政府と契約した、アメリカ企業によるPR戦略の功績です。
開戦当初、劣勢だったモスレム人は、アメリカ軍の力を借りたいとジョージ・ブッシュ大統領に頼み込みます。しかしそんなことでアメリカ軍は動かない。どうすればアメリカ軍を自分たちの味方として引き込めるのか? その問いに対して与えられたヒントは、まず世論を動かせというものでした。アドバイスにしたがってアメリカのPR企業と契約、モスレム人の主張を、一般市民にアピールしたのです。
PR企業は、嘘の情報を捏造したりはしません。(別のジャーナリストが誤解で広めた偽情報をリピートすることはあるけど) ただ、クライアントに有利な情報を強調し、大衆の興味をひくように演出とイメージ戦略などのテクニックを駆使して、世論を一方に誘導していくのです。
もしもこの時、セルビア人が別のPR企業を雇って対抗していたら、歴史は変わっていたかもしれません。しかし、セルビア人側はPR戦略に関心が薄く、結果、アメリカの世論はモスレム人擁護一色になって行きました。世論が動いたことで議会が動き、ホワイトハウスが動き、アメリカ軍がモスレム人支援に動き出しました。
モスレム=正義、セルビア=悪という世論はアメリカを飛び出して世界中に広がり、ついにはNATO軍による空爆がセルビアを襲いました。
こうして、モスレム人はボスニア紛争に勝利したのです。
本書はボスニア紛争におけるPR企業の活動、世論操作の実際を、批判的にならずに、歴史小説的なダイナミズムをもって記した良書です。物語としても面白いです。
特に私の心に響いたのは、セルビア人とボスニア人を対等に見たゆえに失脚した二人の人物です。国連事務総長ブトロス=ガリと、カナダのルイス=マッケンジー将軍。
事務総長は、ボスニアで起こっていることが、世界中が注目する正義と悪の戦いではなく、よくある民族紛争であると見ていました。アフリカ諸国にはもっと悲惨な紛争が数多く、世界はボスニアよりもアフリカに目を向けるべきだと考えていました。それゆえにモスレム人擁護に積極的ではなかった。だからなのか、彼は任期が終わったときに二期目の再選がならず、国連を去っていきました。通常、国連事務総長は二期十年を勤めるものなのに。
カナダ軍は国連平和維持活動のためにボスニアに駐留していました。マッケンジー将軍は現地では気さくな性格で、ジャーナリストの受けも良かったそうです。しかし帰国して自分が見てきたこと、「悪いのはセルビア人だけではない。戦っている全ての勢力に問題がある」と伝えたことで、PR企業が広めた世論と対立してしまったのです。将軍はセルビア人に金をもらっている、嘘つきだと中傷され、退役を余儀なくされました。
この二人のエピソードは、教訓を示しています。「重要なのは真実ではなく、真実だと信じられているイメージの方だ」ということを。自分の目で見た真実を主張した彼らは、一般大衆が真実だと信じたイメージに敗れたのです。
件のPR企業社員で、一連の情報操作を成功させたジム・ハーフ氏。彼は今、独立し、中国の依頼を受けようとしている。そんな話が本書の文庫版あとがきに紹介されていました。それを読んだとき、私は恐怖を感じました。
かの国が自分の正義を主張したとき、悪にしたてられるのは、誰なのでしょうか?
誤解(だと信じたい)による日本の悪いイメージは、世界中に流布しています。欧州では「日本に比べればナチスはまだ善良だった」という日本極悪論が台頭しています。今年就任した国連事務総長は、日本が嫌いで嫌いで仕方がない人です。アメリカの議会では、従軍慰安婦問題で日本を非難しようという動いています。
そう言えば、安倍首相が「日本軍による強制連行はなかった」と発言していますよね。残念ながら私には、一次資料を調べてことの真贋を見抜くことはできません。もしかしたら、安倍首相の言葉が正しいのかもしれない。しかし、そんなことは問題ではありません。重要なのは真実ではなく、真実だと信じられたイメージのほうなのですから。
イメージに逆らった安倍首相は、きっと近いうちに失脚するのでしょう。
アメリカ議会による従軍慰安婦決議は、ボスニア紛争に似ています。世論が動き、議会が動いた。今度はホワイトハウスとアメリカ軍が動くのでしょうか?
日本が悪の枢軸と名指しされ、NATO軍に空爆される日も、近いのかもしれません。

ドキュメント 戦争広告代理店 情報操作とボスニア紛争 高木徹著
投稿者 bonju : 2007年03月19日 23:17
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コメント
こんばんは~。
何年か前にこの番組見ましたよ。
おっそろしいなぁ、と。
メディアリテラシーとかの番組とか話を聞くと、いかに自分がうまく操作されているか、と言うことが良くわかります。
で、僕の場合そこから興味はイメージを植えつけるような部分、心理学にうつっていったり……。
面白かったのがロバート・チャルディーニ著『影響力の武器』です。どうして人は騙されたりするのかについて色々と調べて例を挙げて書いてあります。あと、CMとかの影響とか。多分にこの本に書かれているようなテクニックを駆使してイメージ戦略ってすすめられているような気がします。
さてさて、戦争と言えばデーヴ グロスマン著『戦争における「人殺し」の心理学』も面白いですよ。
他にP.W.シンガー著『戦争請負会社』『子ども兵の戦争』とか、オススメです。『子ども兵の戦争』なんか、ドキュメンタリーなのに涙無しには読めません。
では~。
投稿者 栗田隆喬 : 2007年03月25日 01:50
どうも、栗田さん。コメントありがとうございます。
ご紹介していただいた書籍は、恥ずかしながらどれも読んでなかったのですが(^^;)、検索したら地元の図書館にありましたので今度借りてこようと思います。
投稿者 梵樹 : 2007年03月25日 17:54